8.may tue
1:00pm
連日の疲れがたまっているせいか、割と早めに寝たのに午後まで熟睡。
シャワーを浴びて外に出ると今日も快晴。
タクシーでBlue noteの前を通り過ぎると、まだシャッターが降りてるので、天むすの老舗に行くが、本日休業。ふと見ると隣はESPのギター店Big boss。この界隈は何か電気屋さんやオーディオショップが並んでいる。
丁度良かったと思い、店内を眺めて、またまた試奏開始。
まず、前から興味のあった Fender '57twin
57年製ツインのリイッシュだけど、最近のクラプトンはこれにシールド1本らしい。確かに気持ち良くかなり歪む。歪み系でブルースを弾くならこれは確かに凄くあってる。クリーンもvol3以内ならば、なんとかいける。だけど、これはクリーン用アンプでは無いと思った。
次 隣にあったCornel Romany plus
これもクラプトン愛用品なのだけど、小音量で本物のチューブトーンを得られる。クラプトンは楽屋で愛用との事。確かにアッテネ−ターをかますよりも、良いトーンそのままで、57twinを更に品良くした感じ。しかし、ライブはきついよな、これは。クラプトンの楽屋用というのは57twinと弾き比べて納得した。ピッキングニュアンスを本番ステージそのまま練習できるものね。
次 koch sutudiotone combo
これも前から気になっていたアンプ。20wにも関わらず思った以上の音圧。しかも重さも軽い。クリーンもかなりいける。歪みは勿論バリバリ。。この大きさ、この重さの真空管アンプとしては驚きの内容だった。もしおシゴトで使うなら、これは最適。pops系でもrock系でも何でも大丈夫。
がっ、、、PRSと同じでこのアンプから本当の名演奏が生まれる気が正直しない。この音は良くも悪くも汎用性。でも汎用性を求められる現場では、これは間違い無く最適、最高のアンプですね。
次 これも前から気になっていた、sadowsky Jim Hall model
'57twinに繋いで試奏。うーん、弾き易い。無駄が無くバランスが良い。gibsonのイナたさが全然無い。さすがD'aquistoの名手だった御大の為のギターですな。でもこれも買いたいギターでは無いなぁ。まず生の鳴りがあまり気に入らなかった。フルアコはまずは生音の方が大事だと思う。これは中低域の深みが足らない。その分、ハウリング対策になるし、ある意味現代的な音ではある…、けれど。今のJim Hallのプレイにはこのギターは合ってるのかもね。。近年メインはもろのアコギばかりの自分にはこの辺はやはり気になるな。
ところでこのお店も店員さんの感じはとても良かった。東京とはなんだか随分違うな。。
3:00pm
店を出て、さっきの老舗の天むすの千寿は、松坂屋の地下にもあるとの貼り紙なので、松坂屋にぶらぶら歩いて向かう。パルコやロフトなどの西武系デパートが並ぶ。
松坂屋の天むすの千寿は、中途半端な時間で客は僕だけ。天むすセットを食べた。口に入りやすい大きさで美味しい。この天むすはタレではなく薄いスパイスで味がついてる模様。これもさっぱりして良いね。
4:00pm
Blue Note到着。
シャッターが開いているので階段を降りて、扉前まで行くと先客のおじさんが一人。しかし階段が相当長いね、ここ。凄く地下にある。まだ開店前の為、階段フロアの電気も薄暗く、まるで洞窟に入った様な気がした。
隣のおっさんはDavid Tをヘッドフォンで聴いてる模様。僕は静かに三島の『豊饒の海3巻- 暁の寺』を読んだ。
たまたま開いたページはインドのアジャンタの仏教遺跡の洞窟のシーンだった。僕は精神の深い場所に入るモードに成ってると幾度となくこの小説を読み返す癖があるのだ。必ず自分の気持ちに呼応する言葉がここには並んでいるから…。
1時間と少し待ってからレセプト開始。荷物をクロークに預け、葉巻きを少し吸う。
会場して案内の女性に、「David Tのアンプの真ん前にしてください」と伝え、本当に真ん前に座った。見渡すと会場は思ったより広くライブハウスというよりも中ホール並みのキャパの様だ。1stステージの客の入りは200人前後程度だと思う。
まずは、自分の為に御祝のつもりでシャンパンを注文。多分、今日のこの瞬間は、誰にも知られない何かの祝祭なのだ。
彼のアルバムを一生懸命聴いていた20年前から、今までの自分の人生が凝縮している様な気持ちすらした。
僕の目の前には椅子と、アンプが一つ置いてある。シールドが一本繋いであるだけだ。
そしてDavid Tがメンバーと共に登場した。
微笑んで登場したその姿から、既に、あの音が鳴っていた。soulやR&Bの歴史を創りあげてきたあの音だ。
ギターを構えるより先に音を既に身体に鳴らせる人物を、僕は彼以外ではJeff Beckしか知らない。それくらいに楽器が身体化できているのだ。
The Real Tで演奏が始まった。
フルアコではなく、ソリッドのしかもアクティブ系のシングルピックアップを構え、Fenderの強い輪郭のHod rod devilleを鳴らす彼の音は、やはりあの音だった。彼以外がこのセッティングを弾いたら、単にペンペン、ギラギラの音になる様なセッティングだ。ところが、あのウォームなトーンを弾き出している。
フレーズ前の呼吸のとり方も、いつも通りだ。全く冴えていて衰えていない。
39年前の初ソロレコーディングのあの音から、成長はしていても基本的に全く同じだ。
以前にもバックメンバーでの彼のライブは聴いた事はあるが、それにしてもこんなに真近くで、あの右手、左手の技術を眺めたのは初めてだ。彼の存在、この瞬間が、まるで神様のプレゼントの様だ。
曲が進み、Lovin' youを優しく演奏した。思わず泣きそうになったが、これを聴いて大の男がうるうるするのも…、かっこいいのか情けないのよく解らない。
1stステージ前半は割りと静かに流した。他のメンバー、特に突然参加のベースは譜面を眺めて弾いているが、David
Tは譜面台こそあれ、全く譜面に目がいかない。これは彼がリーダーで彼のレパートリーを演奏しているからでは、おそらく無い。
曲の構造の流れが理知的にも、感覚的にも、全て飲み込んで弾いてるからだ。彼はスタジオで初見の曲でも、たぶんあまり譜面を凝視しないと思う。プロの中でも、本物のプロだけができるレベルだ。
後半から徐々に盛り上がって来る。David Tも立ったり、歩いたりして弾きはじめる。
ドラムが流石にマイルスとやってただけあって、ソロの読み取り方が絶妙で、フィルを突っ込んで来る。すると突然David Tのタイムの切り込み方が凄まじいスピード感で切り込みを入れるのだ。これが凄い!!。あれだけメロウに弾いてるにも関わらず、全くゆるいサウンドに成らないのは、あのタイムのスピード感にある。
調子が良い時のJeff Beckは、音符のタイムのスピード感では世界のプレーヤーの中でもNo1なのだけど、David
Tは瞬間的にそれを超えてみせるのだ。あのタイム感を出せる人は、他の全ての楽器プレーヤーと比較してもそうは居ない。
これが、たぶんメロウな仮面の下に隠されたDavid Tのギターの本性だと思う。
そして、chord voicingの意外な巧さ。レコードではその消息があまりよく解らないのだが、真近くで左手のポジションを見てよく解った。特徴は、4度voicingが多いことと、解放弦を使ったhybrid
voicingが多用されること。そしてあの絶妙なフィルインや、単音ソロでの内容は全てそのvoicingに依存している。あの切れ味のタイムを、そういうvoicingのコードでしかもインプロヴィゼーションで決めるのは、非常に難しい技だ。それをスパッ!、っとビシバシ決める。
この人をいぶし銀の地味なギターだと思ったら大間違いである。
そして、右手。あのトーンの秘密は当然、右手にあるが、それは( 以下削除 企業秘密 )
そして、こうした手先の技術以上に重要なのは、呼吸である。フレーズに歌を吹き込む為に、本当に一音一音魂から歌っている。
これを3時間、真近くで眺めて、自分のギターの表面性、平面性に愕然とした。音の奥行きや空間の作り方の根本が違うのである。あれはエレキではなく、アコギを弾きこなすのに近い感覚のプレイだ。David
Tがアタッチメントを一切使わない理由がよく解る。あのダイナミズムをペダルなどは寧ろ疎外してしまう。
あのアプローチ法だと、足元にペダルをずらずら並べて巨大なアンプを弾いて迫力を出そうとするタイプとは逆に、寧ろ凄い音楽的な迫力をコントロールし易くなるのである。これこそ弦楽器奏者の理想だと思う。
アンコールを終えて1stステージを終えるまで、そういう部分ばかりに反射的に思わず集中してしまった。
2ndになるまで控えで待っていたら、さっき演奏中に禁を破ってこそこそPDAで撮影したのが見つかっていて削除させられた。しかし‥実はばっちりですよ。あとは御想像に御任せ致します。チーフマネージャーの彼は立派に職務を果し、客の私は満足した。これが大人の取り引きです。
それで気を使ってもらったのか、また一番に並んだ。またさっきの真ん前の席。客もより多く増え、今度はギター野郎と思しい客が増殖の模様。
曲目はほぼ1stと一緒なのだけど、後半になんとPress onの中からも一曲『Didn'
t I know』を演奏。2ndの方が盛り上がりましたな。今度は落ち着いて彼の極上の音楽を充分に楽しんだ。曲に入る直前に『You
don't know what love is』や『Georgia on my mind』などのチェンジを軽く交えたりしたプレイもあった。
そして、同じ曲目で、内容の持って行き方の違いがよく解った。インプロでの構成力がやはり凄いのが確認できた。
そしてステージの締めは、やはりPress onの『With a little help
my friend』のラストのファンキーなフレーズで締め。
再発されたCDの全ての中から、ほんのユーモアを交えてポイントをかいつまんだ選曲でした。
1st, 2ndともアンコール終了後に、David Tと握手をした。
そしてステージ終了後、サイン会があって、僕は勿論、Press onにサインして貰った。他のメンバーにはDavid
Tの原点『The sidewalk』にサインして貰う。
ベ−スの彼は僕をじっと見て『君はペットをやってるのか?』と尋ねた。いや、ギターなんだけど‥と答えたけどたぶん僕の唇を見てそう言ったのだと思う。
David Tは、目の前で3時間食入る様に凝視していた僕がすぐに解り、『君は両方のステージ見てたね』と微笑んだ。名前は?と問われ、何故か思わず音楽名義で答え、S、A、 L、 O、…緊張して間違えてポストロフィでは無く、ダッシュと言ったりして、伝えるとそう書いてくれた。その名前を書きながら、意味ありげにメンバーと顔を見合わせ、苦笑するDavid T。
このアルバムを20年間愛してきました、と彼に言うと、『これは君のバイブルだね?』と言ったので、そ、そうです、と答えた。で、3回目の握手。
充〜〜分に満足しました。
…というか放心状態です。
この後、数日間、ずぅ〜〜とそれが続いた。で、自分のプレイの見直すべき点がかなり明確になった。。
(…けれど、今まで何をやってたのだ、俺は???)